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映画監督/アニメーター 大杉 宜弘さん

2015年5月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2015年4月1日時点の内容です

子供の視点を忘れない

1980年の「のび太の恐竜」から始まった映画「ドラえもん」シリーズはことしで35周年。現在公開中の最新作を手掛けたのはアニメーターとして20年以上のキャリアを重ねた、道産子の大杉宜弘監督だ。東京の仕事場を訪ね、監督業について話を伺った。

「決断する」のが監督の仕事

高い水準を世界に誇る、日本のアニメーション技術。その業界で生きる人々にとって、劇場映画版の「ドラえもん」を監督するとは、一体どれくらい価値があることなのだろうか。

現在公開中のシリーズ35作目「ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」の大杉宜弘監督は「お話を頂いた時には、何も考えず承諾しました。だって、一生に一度、撮れるかどうか分からないですから」と話す。

といっても、それは約2年前の話。初回の打ち合わせは2013年6月に行われた。本作でいえば約7~8万枚の作画を必要とするアニメ映画。スタッフは総勢数百人に及び、制作期間も長期にわたる。気が遠くなるほど緻密な作業の積み重ねによって、1本の映画が出来上がるのだ。

「監督の一番大きな仕事は〝決断する事〟だと思います。こうするのか、しないのか。いいのか、悪いのか。全ての事を決め、きちんと伝達して全体を統一する役割です」。アニメーションの仕事は、単独でコツコツ絵を描く仕事のように思われがちだが、「多くの人が作品に関わる分、コミュニケーションは不可欠ですね」

設計図に当たる「絵コンテ」を数カ月がかりで手描きし、「キャラクターの芝居を見る(動きを設定する)」のも監督。さらには、1秒間に入る24コマそれぞれの長さをストップウオッチで計測するなど、作業は多岐にわたる。本作の完成直前は仕事場に泊まり込みだったそうだが、「作っている時間は楽しいですよ、やっぱり」と笑う。

写真左:大杉監督が今回の映画用に数カ月がかりで描き上げた絵コンテは、計4冊。これを基に、アニメーターによる作画などが行われる 写真右上:秒数を計りながら「タイムシート」に、「原画」と、原画をつなぐ「動画」のコマを割り振っていく。本作の完成までにストップウオッチ2台を使いつぶし、これが3台目 写真右下: のび太が描かれた動画の1枚。作業机には、トレース用に照明器具が内蔵されている。消しゴムかすを払う羽ぼうきも必需品

アニメ「ドラえもん」は偉大なるスタンダード

そこまで仕事に打ち込めるのは、幼いころから絵を描くことが好きだったから。祖父が買ってくれた本に載っていたドラえもんの絵を、懸命に描き写していた自分の記憶が、ルーツにある。

高校生までは漫画家を志し、札幌から幾度か作品を投稿。「でも全然ダメで。漫画家の才能がなくても、絵を描く仕事に就きたいと思ってこの道に進みました」。今は「大人の発想ではなく、子供が見て面白いかどうか」を基準にしている。仕事場には玩具が置かれてあり、スタッフも皆、童心を忘れないよう心掛けているそうだ。

漫画として誕生してから半世紀近く、時代が移り変わっても愛され続けている「ドラえもん」を、大杉監督は「アニメ界の偉大なるスタンダード」と表現する。「僕は今後も、子供たちに見てもらえる作品に携わっていきたいと思っています」。ドラえもんの〝ひみつ道具〟を借りずに自分の夢をかなえた大人代表は、静かにそう言った。

写真:映画の打ち合わせを行う会議室の本棚に並ぶ「ドラえもん」のコミックスは、ボロボロに使い込まれている

PROFILE

大杉宜弘(おおすぎ・よしひろ)

1974年、旭川市生まれ、札幌育ち。代々木アニメーション学院在学中に就職が決まり、1993年、中退してアニメーションスタジオ亜細亜堂へ入社。1997年、フリーランスでの活動を開始。アニメーター、演出家として「ドラえもん」をはじめ数多くのアニメ作品に携わり、ゲーム「イナズマイレブン」シリーズのアニメパートや、川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム(神奈川県)内で上映する短編映像の監督を経験。ことし3月公開の「ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」で、劇場映画を初監督した。

映画「ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」

みんなでヒーロー映画を作ろうと思い立ったのび太。ドラえもんがひみつ道具「バーガー監督」を出して撮影を開始するが、偶然地球に不時着していたポックル星人のアロンがそこに現れる。
原作:藤子・F・不二雄
監督:大杉宜弘/1時間41分/
東宝配給 全国公開中
http://www.doraeiga.com/2015
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2015

編集:(株)KADOKAWA 文:矢代真紀 写真:尾嶝太(尾嶝写真事務所) 撮影協力:シンエイ動画、北海道東宝

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2015年5月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2015年4月1日時点の内容です

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