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作家/桜木 紫乃さん

2015年9月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2015年8月1日時点の内容です

書きたい景色は北海道にあるから

北海道で執筆活動を続ける、釧路市出身の直木賞作家・桜木紫乃さん。 自著の初映画化作品で、ほぼ全編北海道ロケによる「起終点駅 ターミナル」が、この11月に公開される。 講演で札幌を訪れた桜木さんに、仕事のスタイルや、小説を書く上で自身が大切にされていることなどを伺った。

空や海を見ていると話が動く

ある時は緑に染まる真夏の釧路湿原を、またある時は流氷で埋め尽くされたオホーツクの白い海を。作家・桜木紫乃さんが繊細な筆致で作中に表現する北海道の風景は、空気がはらむ湿度や匂(にお)いをも、読み手に喚起させる。 生まれてから30年以上を道東で過ごし、小説に興味を持ったのは中学時代。同郷の作家・原田康子氏の「挽歌」を読み、衝撃を受けた。「自分が住んでいる釧路が舞台だったので、擦れ違う人の中に主人公がいるかもしれない、という感覚になりました。町行く人それぞれに、物語があるのだと」 結婚、出産を経て現代詩の投稿から始めた執筆活動は、やがて小説へと移行。「書き始めて4年で新人賞を頂いたのですが、そこからデビューするまでが大変でした」。出版されるかどうか分からない状況で約5年間書き続けられた原動力は「過去を振り返って『お母さん、本当は小説を書く人になりたかったんだよね』と子供たちに話す自分にはなりたくない」という思い。やがて欲が消え「デビューできなくても私、書くな」と思ったころ、処女作『氷平線』の刊行が決まった。

毎日の執筆活動は、家族を送り出した朝8時過ぎから。外が晴れていても遮光カーテンを引き、暗い室内でパソコンに向かうのが昔からのスタイルで「暗い方が集中できるんですよ」。午後4時ごろ、好きな音楽を聴きながらの入浴時間がリフレッシュタイムという。「1行1行ゆっくり書き進めるので、早い方ではありません。毎日、原稿用紙10枚を目標にしています」 小説の舞台となる土地や主人公の職業について綿密な取材を重ねて執筆に入る作家も多いが、桜木さんの取材は少し変わっている。「できるだけ、人と話したくないんです。人の口から聞くと主観が入るので、その方の物語になってしまう気がして」。それよりも、出掛けた土地で空や海を見ていると物語が動き出すそう。「書きたい景色のほとんどが、北海道にあります」

写真左:小説の舞台となる土地の風景が載った写真集やガイドブックを、資料本として数多く所有している
写真中央:愛用のシステム手帳。仕事のスケジュールや航空券などを全てこれで管理する
写真右:移動中は音楽を聴きリラックス。就寝前には『極道の妻(おんな)たち』シリーズ他、好きなDVDを繰り返し観賞

最もうれしい瞬間はラストシーン執筆前夜

11月には、自著の初映画化作品『起終点駅 ターミナル』が公開される。実際に釧路の撮影現場を訪れてみて、「映画はプロの表現者が集まるチームプレー。原作はその"きっかけ"でいい、と実感しました」と話す。 至福の瞬間は作品完結の前夜。残り1枚で終わる場合でも、必ず「明日、ラストを書く」と決めて床に就き、翌日、丸1日かけてラストシーンを執筆する。「今後も言葉を研いで、もっとうまく書けるようになりたい。そうすれば読む方にも伝わると思っています」

写真左:ことし文庫化された「起終点駅 ターミナル」(小学館)。書き上げるまでは難産で、担当編集者と二人三脚で 乗り切った思い出深い作品
写真右:映画「起終点駅 ターミナル」の台本。決定稿が出るまでには長い時間が費やされた

PROFILE

桜木紫乃(さくらぎ・しの)

1965年、釧路市生まれ。江別市在住。2002年、「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、同作を収録した短編集「氷平線」でデビュー。13年「LOVE LESS(ラブレス)」で第19回島清恋愛文学賞を受賞。同年「ホテルローヤル」で第149回直木三十五賞を受賞。他の著書に「凍原」「無垢の領域」「蛇行する月」「星々たち」などがある。ことしは3月の「それを愛とは呼ばず」に続き、9月26日(土)に根室市が舞台の最新作「霧 ウラル」を上梓。11月に自著の初映画化作品「起終点駅 ターミナル」が公開される。

DATA

映画 「起終点駅 ターミナル」

裁判官として旭川で働く鷲田完治(佐藤浩市)の前に、昔の恋人・冴子(尾野真千子)が被告人として現れる。裁判後に逢瀬(おうせ)を重ねる中で、完治は家族を捨て冴子と生きる決心をするが、彼女は自ら命を絶った。それから25年。釧路で孤独に暮らす完治は、椎名敦子(本田翼)という女性と出会う。

監督:篠原哲雄/1時間49分/東映配給
11月7日(土)公開
http://www.terminal-movie.com

編集:(株)KADOKAWA 文:矢代真紀 写真:齋藤義典 撮影協力:札幌グランドホテル

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2015年9月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2015年8月1日時点の内容です

raporaはAIRDOが発行する機内誌です。
最新号はぜひ機内でお楽しみください。

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