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和紙作家・和紙職人 東野早奈絵さん

2016年3月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2016年2月1日時点の内容です

北海道の素材で紙を漉(す)く

自分に合った物作りの形を探し続けた結果、「紙漉き」の世界に行き着いた道産子がいる。福井県越前での修業経験を持つ、北海道では希少な女性の和紙作家の工房を訪ねた。

越前和紙の工房で修業

図書館で閲覧した本に載っていた、1枚の美しい紙。「心惹(ひ)かれたその和紙の産地が、福井県越前でした」と、和紙作家の東野早奈絵さんは話す。

札幌のスポーツ一家に生まれた。「でも自分は小さいころから物を作る方が好きで。家族でテニスをしていても、気が付くと近くの草を摘んでカゴを編んでいるような子どもでしたね」

大学卒業後、美術と理科の教員として働いたが、「物作りに携わる仕事に就きたい」という思いは常に心の片隅にあった。6年で退職し、雑貨について学ぶために上京。雑貨店の販売職を経てスクールにも通った結果、「自分と相性が良いのは文房具やインテリア雑貨。中でも紙の質感が好き」と気付いた。東京に出て5年目のことだった。

そこで、紙についての知識を得ようと資料本を読む中で魅了されたのが、冒頭の越前和紙。旅行がてら現地を訪れ、工芸館へ足を運ぶと、伝統工芸士による紙漉きの実演を見学できた。他の観光客が5分程度で去る中、「面白くて30分くらい足を止めたまま見ていたら、工芸士さんに『紙好きなんけ?』と話し掛けられたんです」

紙漉きを仕事にしたい旨と連絡先を伝え、その後、地元で開催される職人の育成講座などに参加するうち、受け入れてくれる工房が見付かった。福井県に移住して丸5年間修業を重ね、札幌に戻ったのは2012年のことだ。

写真左:東野さんによる、手漉き和紙はがきの代表作「ゆきふみ」(1枚¥540)。白い雪の上に残る足跡が、紙の凹凸で表現された、心和む作品。工房内のショップでも販売中
写真右:越前在住の人間国宝、岩野市兵衛さんから贈られた刷毛(はけ)。干し板に紙を張り付け、乾燥させる際に使う

表情豊かな蝦夷(えぞ)和紙を暮らしに取り入れて

けれど、そもそも和紙の主原料となる植物の楮(こうぞ)が育ちにくい北海道には、紙漉きの文化そのものが根付いていない。必要な道具は、ひと通り越前で購入し、トラックで運んだそう。一軒家を仕事場に借り、工房、ワークショップスペース、販売コーナーに空間を仕切って使用している。

現在、東野さんが製作に取り組むのは、アイヌ民族の織物の原料としても知られるニレ科の高木「オヒョウニレ」や笹、白樺(しらかば)など、北海道に自生する植物から作るオリジナルの「蝦夷和紙」。素材の採取から始まり、皮をむき、煮て繊維をほぐし、不純物を取り除いてからやっと漉く段階に入る。冷たい水が上質な和紙を作るといわれるが、「北海道の冬は寒すぎて、気を付けないと凍ってしまいますね」と笑う。

蝦夷和紙は、一般的な和紙に比べると粗い質感が持ち味。表情が豊かなぶん、照明のシェードや、室内の壁紙のポイントとして使用するなど、従来の和紙にはない用途の可能性も広がる。そうして、「日々の暮らしの中で和紙を身近に感じてもらえること」が、東野さんにとっての今後の目標でもある。

写真左:紙漉きに欠かせない道具「簀桁(すけた)」
写真右:エゾシカ革作家と東野さんのコラボレーションにより生まれた「わしか」シリーズの、カードケースなどの雑貨

PROFILE

東野早奈絵(とうの・さなえ)

1973年、札幌市生まれ。北海道教育大学岩見沢校社会教育課程卒業後、1996年から6年間、教員として勤務。2002年、退職後に上京。雑貨店などで働きながら雑貨の企画デザイナー育成講座に通い、進路を模索。07年より、福井県越前市の工房で紙漉きの修業を始める。12年4月に札幌へ戻り、12月に「北の紙工房 紙びより」をオープン。和紙によるオリジナル作品のショップを併設し、紙漉き体験のワークショップも開催。札幌市内のイベントにも、たびたび出店している。

DATA

北の紙工房 紙びより

札幌市厚別区厚別北3条5丁目33-5
TEL:011・891・8424
10:00〜18:00
休日:火曜日、年末年始(臨時休業の場合あり)
http://blogs.yahoo.co.jp/kamibiyorisana/

編集:(株)KADOKAWA 文:矢代真紀 写真:齋藤義典

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2016年3月号 AIRDO機内誌「rapora」掲載
※情報は2016年2月1日時点の内容です

raporaはAIRDOが発行する機内誌です。
最新号はぜひ機内でお楽しみください。

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